「旦那、これは心ばかりの…」
町人らしき男がそんなことを言いながら、
蕎麦をすする主水さんの脇に金を置いて行く。
「おぅ、すまねぇな」と、当たり前のように頂く主水さん。
「必殺シリーズ」で、ほぼ毎回のように見られるワンシーンですね。
あれを見るたび
主水さん、アコギやわあ、
ああやって、町人からみかじめ料を巻き上げて、払わない町人には
難癖つけて嫌がらせするんだわ
と思っていました。
でも、実際は、主水さんに限らず、ほとんどの同心・与力が同じような
金を「付届け」として受け取っていたようです。
そして、それこそが、彼らの生活を支えていたそうなのです。
そもそも、同心の方々は非常に薄給で、とてもお給料だけでは
生活できないのが実情でした。
そこで、大抵の同心は必ず内職を持っていたのですが
町奉行の同心だけは、常に懐に5両ほど(50万円前後)のお金を
持っているほど潤っていたのだそうです。
芸能界の重鎮なみではないですか…。
で、その財源が、先程の付届けなわけです。
一人一人の付届けは大した額でなくとも、総合すれば
かなりの額になるのです。
かなりの額すぎる気もしますが。
では、なぜ、堅気の町人がそのようなお金を贈るのでしょう?
まっとうに生きている人々が、警察に袖の下を渡してまで
便宜を払ってもらおうとしていたことは、一体何なのでしょう?
答えは「犯罪の揉み消し(=通称、抜け)」なのです。
…ものすごく不穏な響きです。
現在でも、警察がこんなことをしたのが明るみに出たら
大スキャンダルです。
ついに、同心標本は、江戸の昔から連綿と続く
警察の腐敗にメスを入れるのでしょうか…
ドキドキドキ
江戸の昔でも、盗難事件などが起これば、その被害者は
証人として奉行所に赴かなければなりませんでした。
その場合、当然、仕事は休んでいくわけで、今のように
年休制度などありませんので、一日の儲けを棒に振っての
出頭ということになります。
長屋の住人なら、大家さんに付き添って貰わねばならず
大家さんへの日当も払わなければならないので
経済的に痛手です。
仮に盗難にあった金額がごくわずかだとすると
被害額より、奉行所に出頭することによる損失のほうが
大きくなり、割の合わない事態になります。
このような場合、日頃から金で手懐けている懇意にしている同心に頼み
盗難の事実を調書から抜いてもらうのです。
これが「抜け」なのです。
ちなみに当時は
「被害が金一分・銀十匁(もんめ)・銭十貫以下の訴訟は
取り上げない」
という決まりもあったようです。
金一分とは一両の1/4なので、時代によって変化するものの
今の金銭感覚で2.5万円ほどでしょうか。
しかし、銭十貫を金に換算すると二両二部になるそうです。
二両二部ってことは、25万くらいってことですよ。
…大金ですが…。
ちなみについでに
当時は「十両盗めば首が飛ぶ」という言葉があった一方
空き巣被害が十両以上であったとしても、犯行時間が昼間
だったりすると、盗まれる方にも落ち度があった、として
犯人は叩き刑で済んだとか。
この金銭感覚…
なんだか、よく分からんです。
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